絵本で育む子どもの自己肯定感:保育現場で実践する読み聞かせと絵本選び
自己肯定感の育成と絵本の役割
保育の現場で子どもたちの成長を日々見守る中で、「自己肯定感」という言葉に触れる機会が増えていることと存じます。自己肯定感は、非認知能力の一つとして、子どもが自分自身を肯定的に捉え、困難に立ち向かう力や、他者との良好な関係を築く上で不可欠な心の基盤となります。絵本の読み聞かせは、この自己肯定感を育む上で非常に有効な手段の一つです。本記事では、絵本を通じて子どもの自己肯定感をどのように育むか、そのメカニズムと具体的な読み聞かせ方、そして絵本選びのポイントについて解説いたします。
非認知能力としての自己肯定感とは
自己肯定感とは、「自分には価値がある」「自分はかけがえのない存在である」と、ありのままの自分を受け入れ、肯定する感覚を指します。これは、テストの点数や運動能力といった数値で測れる「認知能力」とは異なり、意欲、協調性、忍耐力、問題解決能力などと同様に「非認知能力」に分類されます。
非認知能力は、幼児期から学童期にかけての経験によって育まれることが知られており、将来にわたる幸福感や成功に大きく影響すると言われています。自己肯定感が高い子どもは、新しいことへの挑戦に前向きで、失敗を恐れずに再挑戦する回復力(レジリエンス)を持ち、良好な人間関係を築きやすい傾向にあります。
絵本が自己肯定感を育むメカメニズム
絵本の読み聞かせが子どもの自己肯定感を育むプロセスは多岐にわたります。
1. 共感と自己認識の促進
絵本に登場するキャラクターの感情や経験に共感する過程で、子どもは自身の感情や経験と重ね合わせることがあります。多様な感情や状況が描かれた物語に触れることで、「自分と同じような気持ちになるのは、自分だけではない」という安心感や、「自分の感情は自然なものだ」という自己受容に繋がります。
2. 肯定的なフィードバックの機会
読み聞かせの際、子どもが絵本の内容について発した言葉や行動に対して、保育者が肯定的な応答をすることで、子どもは「自分の発言には価値がある」「自分は受け入れられている」と感じます。これは、自己表現への意欲を高め、自らの存在を肯定的に捉える基盤となります。
3. 成功体験と達成感の共有
物語の主人公が困難を乗り越えたり、目標を達成したりする姿を見ることで、子どもは疑似的な成功体験を得ます。また、読み聞かせを通じて物語の世界を理解し、感情を共有できたという経験そのものが、子どもにとっての小さな達成感となり、自己効力感を高めます。
4. 多様な価値観の受容
絵本には、様々な個性を持つ登場人物や、多様な文化・背景が描かれています。これらに触れることで、子どもは「みんな違ってみんないい」という多様性の価値を学び、自分自身の個性も肯定的に受け入れる視点を養います。
自己肯定感を育む絵本選びのポイント
保育現場で自己肯定感の育成を意識した絵本を選ぶ際には、以下の視点が役立ちます。
- 「ありのままの自分」を肯定するメッセージが込められている絵本: 誰かと比べるのではなく、自分自身の存在そのものに価値があることを伝える物語を選びましょう。
- 多様な個性や感情が肯定的に描かれている絵本: 人それぞれ異なる特徴や感情があることを認め、それらが素晴らしいことだと教えてくれる絵本は、子どもが自分と他者を肯定的に捉える手助けとなります。
- 失敗や困難を乗り越える物語が描かれている絵本: 完璧でなくても良いこと、失敗から学び成長できることを示唆する物語は、子どもの挑戦意欲と回復力を育みます。
- 共感を通じて感情の受容を促す絵本: 登場人物の喜怒哀楽に共感し、自分の感情も自然なものとして受け止められるような内容が望ましいです。
保育現場で実践する読み聞かせの具体的なコツ
絵本選びだけでなく、読み聞かせ方も自己肯定感を育む上で重要です。
1. 子どもの反応を肯定的に受け止める
読み聞かせ中に子どもが発する「なぜ?」「どうして?」といった疑問や、物語に関する感想、突拍子もないように見える発言も、すべて子どもの内面の表れです。これらを否定せず、「そう思うんだね」「面白いね」と肯定的に受け止めることで、子どもは自分の意見が尊重される体験を得られます。
2. 登場人物の感情に寄り添う声かけ
物語の登場人物が様々な感情を抱く場面では、「この子、悲しい気持ちになっているね」「嬉しいんだね」などと、子どもの感情を代弁するように声かけをすることで、感情の認識と言語化を促します。そして、「〇〇ちゃんも、そんな気持ちになったことあるかな?」などと問いかけ、共感を引き出すことで、自己理解を深めます。
3. 読み聞かせ後の対話の時間を設ける
読み聞かせが終わった後、「どの場面が楽しかった?」「もし〇〇だったら、どうする?」といったオープンな質問をすることで、子どもが自分の考えや感じたことを自由に表現する機会を提供します。この際、答えに正解を求めず、子どもの言葉を丁寧に聞く姿勢が重要です。
4. 子ども自身の行動や選択を尊重する
絵本を読む中で、子どもが特定のページに興味を示したり、繰り返し読みたいとリクエストしたりすることがあります。これに対し、「そうだね、この場面面白いね」「もう一度読んでみようか」と応じることで、子どもの主体的な選択を尊重し、自己決定の機会を与えます。
まとめ
絵本の読み聞かせは、単なる物語の享受に留まらず、子どもの自己肯定感を育む強力なツールとなり得ます。保育現場において、適切な絵本選びと、子どもの感情や表現を尊重する読み聞かせ方を実践することで、子どもたちは自分自身の価値を認識し、自信を持って世界と関わる力を身につけていくでしょう。日々の読み聞かせが、子どもたちの健やかな心の成長に繋がることを願っております。